< 講座概要 >
令和2年国勢調査は義務教育未修了者の実態に迫る調査となりました。義務教育未修了者とは、学齢期に学校に通うことのできなかった人びとのことを意味します。令和2年国勢調査には新たに「最終学歴が小学校卒業の者」が設置されました。従来は未就学者数(国勢調査の定義によると「在学したことのないひとあるいは小学校を中途退学したひと」)と、最終学歴が小・中学校卒業の者の数でした。
2022年7月29日東京新聞オンライン版はこのような見出しを打ちました。「最終学歴が『小学校卒』80万人 最新の国勢調査で判明文部科学省は夜間中学校の設置を自治体に促す」という見出しです。このように国勢調査が話題になったのは、小学校未修了の人数とともに、小学校修了だが中学校未修了である人びとも把握されたからです。ただし義務教育を受けることのできなかったひとびとの調査はこれまでも存在してきました。学校に行けなかった児童・生徒を対象とした調査として文部省(当時)・東京都により実施された「長期欠席児童生徒調査」があります。これは1950年代に問題となった長期欠席児童問題、いわゆる長欠問題です。ですが15 歳以上の義務教育を受けることのできなかったひとびとについて、継続的かつ全国統一的な調査は国勢調査の大規模調査以外には存在しませんでした。
そこで本講義は、国勢調査を使った義務教育未修了者を把握する分析事例をいくつか示しながら、国勢調査のデータ入手から加工までの手順について解説しようと思います。あわせて、彼らがなぜ、どのような背景で義務教育を受けることができなかったのかについて解説し、憲法26条の教育を受ける権利について考えてみようと思います。
論文について:本講義に関連する論文が2本あります。第1に「未就学者 128,187人に関するカウントデータ分析」基礎教育保障学研究 創刊号, 2017年です。これまで義務教育を終えることのできなかった人々がどのような人々であるのか、国勢調査の調査記録を基に、計量経済分析により明らかにした論文です。私の専門の環境経済学とは異なりますが継続的に取り組んでいる課題です。第2に2024年3月25日に最新の研究についてプレスリリースしました。この内容も講義で触れます。
< 受講生へのメッセージ >
本講義では国勢調査の統計データを元に説明します。ですが数字だけでは、やや味気なくなってしまいますから、義務教育未修了者という人びとのことが想像しやすくなるよう工夫をしようと思っています。数字の持つ背景や意味について、なぜそこにその人びとが存在するのだろうか?地図を使い、グラフを使い、視覚的に示しつつ、ストーリーを一緒に考えていきたいと思います。私たちにとってあたりまえのような義務教育という制度。その義務教育を保障するということがあたりまえでないことを、皆さんと一緒に深掘りできればと思います。
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